千年前世界は4つだった。恐ろしい災厄ディモス・ハザードのせいでひとつになって、本当なら別々に発展したはずの文明と種族が混ざった。
結果。ここアガスティアでは走る魔法使いを拳銃さげた警察がながめ、向かいを剣さげたブレイザーがのんびり歩いている、という光景がごく普通に見られる。昔ある学者が50年かけて「歴史が正常に流れたら科学と魔法の文明は両立しえない」ということを証明したけど、今現在混ざっているのだから意味がないとだれかに指摘されて、その日のうちに崖から身を投げたそうよ。まあ気の毒に。
本来隣同士にならなかった文化の片方、魔術士であるあたしがケリュエイオンからでてまっさきに向かったのはブレイザーギルトだった。
クロウがどんな人物かさっぱりわからないけどブレイザーだというのは聞いたわ。だったらまずブレイザーたちのあつまりにいくのが正解よね。たとえあんまり当てにならなくても最初の手がかりだし、うまくいけばクロウを知っている人に会えるかもしれない。もっとうまくいけば本人がいるかも。
メインストリートを走って、ブレイズ・マーカスシティ支部を威勢よく開けた。
支部中の視線があたしの少し上を通りぬけ、すぐにもとの仕事にもどる。あたしは荒くれたちのあつまりに少しくらっとした。
予想以上の迫力だわ。カウンターにはあたしと同じぐらいの男の子がガンブレイドを片手に受けつけ嬢と話している。ドワーフの銃士がエルフの魔術士と地図を片手に熱心に戦略をねっている。機装術のガーディアンを引きつれた女の子がグレートアックスかついだおっさんと一緒に外へでていく。あれ誘拐じゃないわよね。
ブレイザーがなんなのかしっているつもりだったけど、普段ケリュケイオンの中で本と向かいあっているとつい世間というのがなんなのか忘れそうになって困るわ。物騒な集団の中に行くのにひるみそうになる。ああ、しょせん普通の女の子、あたしってか弱いわ。
こんなことじゃいけないわ。最初の第一歩でひるんでどうするのよ。勇気をだすのよ。
「ねえ聞いて。あたしクロウ・クロロを探しているの。しっている人いない?」今度は支部の人間が残らずあたしを見た。よし、大成功だわ。
「あたしクロウのことなんにもしらないのよ。どんな小さいことでもいいわ、しっている人いない? できれば直接本人を連れてきてほしいのだけど」「ちょ、ちょっとそこの君」
せっかく全視線を集めてもっと話そうとしていたのに隣からのびた手に引っぱられる。
「とりあえずそこを動こう。そこは扉だ。……あー、ご心配なく、俺から話します」あたしをつかんだ男は謝るように周りへ片手で拝むしぐさをする。動かなかった雰囲気がもとのにぎやかさをとりもどしてあちこちで苦笑いがもれた。「たのんだぜ、ゴート」笑いをふくんだ野次が聞こえた。
「まかせてくれ。……君、名前は?」なによ。あたしは手をつかんだ男を見すえた。あたしより少し年上だろうけど、淡い金髪といい柔和な瞳といいいかにも誠実でやさしそうだった。ブレイサーという暴力的な仕事のはずなのにとてもそうは見えない。いざという時頼りたくなるような人ね。頼りになるかはともかく。
「あたしはメアリーよ。あなたはゴートっていうの? クロウについてしっているのね」「うん、まあ、しっているけど。その前にメアリーはマーカスシティにでるのはじめて?」
むっ。なんだか暗に田舎者呼ばわりされている気がしておもしろくないわ。
でも街にでたのは今日がはじめてかもね。ずっとケリュケイオンに引きこもっていて街中に住んでいるにもかかわらず外にでる機会はほとんどなかったのよ。
「こういうときは、扉でどなるのより先に受付で聞くほうがいいんだよ。今度ブレイズにくるときはそうしてな」そうかしら、ちゃんと目標は達成できたけど。
「わかったわよ。それでクロウについて教えてよ」「なんで探しているの?」
「あたしのケリュケイオン生活のためよ。このままだとあたし退学になりそうなの。交換条件としてクロウを探しだせば勘弁してもらえるのよ」
「人身御供?」
厳密にはちがうけど、いわれてみればその通りね。
「魔法でぱっと探しだせないの?」あら、どうして初対面の人間にあたしが魔法使いってわかったのかしら。
「そのマントと杖。ケリュケイオンの印が入っている」ああそうだったわ。制服代わりのマントは独特の形をしている。一目見ればわかるわね。見習いの証である赤い縁取りがついている特別なものよ。よく見ると紋唱術の印も小さく入っているのだけどそこまではケリュケイオンの生徒でもなければわからないわね。
「無理よ。今魔導具持っていないもん」魔導具っていうのはメイジが魔法を使うために必要なフォースの集束具のこと。これがないとどんなすごい魔術士もただの人。
「え、だってその杖は」「偽物よ。見習いは本物の杖を持ちだすには届出をしないといけないの。あたしは急いでいたからいつものを持ってきた」
特にあたしは届けても持たせてもらえないかもしれない。はじめて練習した時、どんなに熱唱しても一人だけなにもおきず夜中までのこされたあげく、最後の最後で特大級の炎をよびだして危うく先生を丸こげにしかけたわ。思えばあの時からメイジに向いていないことはわかっていたのよね。
「だからしりたいことがあったら地道に探すしかないのよ」「あの探し方は地道とはいわない。俺も直接クロウをしらないけど、クロウの知りあいならしっている。チェイス・ケイオスっていうエンジニアだ。裏通りに自分の工房を持っている」
素敵! 意外と早く見つかりそうだわ。ゴートに工房までの地図を描いてもらってからあたしは意気揚々とブレイズを飛びだした。
ところがちっともはやくなかった。迷子になってしまったの!
裏通りはどこも似たような長屋と店ばっかりでそれぞれの見分けがつかないわ。その上目印になりそうなものがなにもない。これじゃどんなに詳しく教えてもらってもたどりつけないわよっ。
空の酒瓶とひっくり返って生ごみが散乱している角を曲がって、あたしはようやく立ちどまった。どれだけさまよったのかしら、昼すぎにケリュケイオンをでて今夕暮れだから3時間は無駄に歩いたわね。いい加減腹がたってあたしは悪態をつきながら地面にへたりこんだ。
「よう、おじょうちゃんご機嫌ななめだなあ!」声をかけられたわ。人がいるなんて思いもしなかった。
よっぱらっているのは明らかだった。こんな時間から飲酒かしら。そのわりに酒くさくないわね。ひょっとしたらドラッグでらりっているのかもしれないわ。
「おじょうちゃん元気がいいねぇ、だが気をつけな。マーカスシティは危険が満載だ、こんなところで座りこんじゃ生きていけねぇよ」うるさいわね、ちょっと休憩しただけよ。男は焦点がずれている目であたしを見る。
「いいこと教えてやろうか。マーカスシティを生きぬくために絶対にしらなくちゃいけねぇことだ」え、なになに?
「スタイルだよ」スタイル?
「おじょうちゃんにはスタイルがあるか? 絶対にゆずれない主義はあるか? 大事にかかえているいきざまはあるか?」真面目に聞いて損したわ。少なくとも今しりたいことじゃなかった。あたしは立ちあがっていこうとした。
「なんだ、ないのかよ。危ないぞ、その程度じゃ無駄足どころか死体で帰るはめになるぜ」むっ。腹がたってあたしはかみついた。
「スタイル? 主義主張ということね。だったらあるわ、とびっきりのが。なんとしても偉くなって貧乏から脱出して、明るく楽しい人生を送るのよ!」「威勢のいいことだ」
愉快そうに笑う男は放っておく。正常そうだったら道案内を頼むところだけど、あの状態で案内されたら地獄へ連れていかれそうだわ。これだから都会は物騒なのよね。
それからさまよってさまよってやっとついた。どれだけ迷子になったのか語りだしたら一日はかかりそうよ。なぞの木箱を取引しようとする現場を通りすがったし、ここぞと思うところをあけたら猫みみ帽子のディテクティブが虫眼鏡片手にあるいていた。目的地は最低2回は通りすぎた建物だったわ。ふん。
「邪魔するわよ!」今度は礼儀正しく挨拶をする。古い建物ね、扉が重いわ。
暗くてよく見えない。機械片がつみかさなってところせましと雑誌と設計書が麻ひもでまとめられている。とてもきれいとはいえないわね。
「チェイス・ケイオスいる? あたし、聞きたいことがあるのだけど」工房内は静かで生き物の気配はない。留守なのかしら。
「いるよ」意外とそばから聞こえてきた。あたしは挨拶しようとする。
ところが、ふりむいたとたんあたしは絶叫してしまった。悲鳴は工房を基盤からゆるがして中央広場のマーカス像まで届いたわ。
工房の主は特に表情をかえずに耳をふさいでやりすごした。あたしの息がきれて反対側の壁にはりついてからようやく手をはなした。
「気味悪がられたり驚かれたりはなれたけど、顔見て叫ばれたのははじめてだな」あたしは我にかえってバッタのように謝った。たしかにひどいことよね、人の顔見て悲鳴なんて。
ひどいことだけど、とてもひどいことだけど、でもしょうがなかったのよ!
三日たったさばのような目! 白いを通りこして土気色の肌! 肌にしわはなくまだ若そうに見えるのに髪は半分白髪で表情におおよそ動きも感情もない、はっきりいって生気がない!
死体だわ、死体そっくりだわ。まるで3日間死んでいてちょっと挨拶に起きたかのようよ。
男はあたしの杖を見てやっと表情を変えた。唇を少し引きしめて下がる。
「メイジか。クォーツを売ってほしいんだったら悪いけど、もうここは閉鎖するつもりだよ」あら、よくよく見ると右手は義手だった。動作はなめらかで全然気がつかなかった。つけて長いのかしら。
「クォーツを買いにきたんじゃないわ、」クォーツはかつてホシビトの遺跡にのこされた超技術の鉱石のことよ。値段は馬鹿みたいに高くて、あたしはもちろん一般市民には手がとどかないわ。
「しりたいことがあるのよ、チェイス・ケイオス。クロウを探しているのよ、彼についてなにかしらない?」「ああ」
ぼんやりを顔をあげて手でおおった。うん、そのほうがいいわ、うすぐらいところで会いたい容貌じゃないのよ。
「うわさでは殺されたみたいだよ」冗談じゃないわ。
殺されたってどういうことよ、勝手に死なないでほしい。
クロウが死んでいたらあたしはどうなるのよ。トリステザ先生はひどい人だわ、「死んでいました」「じゃあしょうがない」ですむわけないわ。よくて試験、不合格。悪くてその場で退学よ。
こまるのよ。あたしの進路と、場合によっては命がかかっているのに! なんて犯人はひどい人なの。クロウだけでなくあたしも抹殺しようとしているわ。
「そういわれても。僕にはなにもできない。不死鳥のカードでも待っていてよ」「おもしろくないこといわないで、あたしは本気なのよ!」
チェイスは小さい声でつぶやくだけだった。頼りないわ。
「なんとかできないの? クォーツで生きかえらせるとか!」「クォーツは魔法の道具じゃないって。そもそも僕はただのエンジニアだよ。修理と整備で手一杯なのにそんなこと期待されてもどうしようもない」
うう、役に立たない。
どうしよう。「いや僕たち初対面だよ、そんな過剰な期待されても。そもそもどちらさま? なんでクロウを探しているの?」疑問を聞きながらあたしは思考の迷宮へとはいりこんだ。
「あたしはメアリーよ。先生の命令でクロウをケリュケイオンに勧誘しにきたの。でないとあたし奨学金うちきられて退学させられるかもしれないのよ。でも死んでたなんて考えもしなかったわ。なんて弁解しよう」死んでいたのならクロウを連れていけないわ。代わりにトリステザ先生の機嫌をなだめる方法はなにかしら。
そもそもクロウを探している理由は忙しいから仕事を手伝ってくれる人がほしいのよね。あら、なら別にクロウでなくてもいいわ。ほかの有能で仕事ができるメイジを持ってくればいいのよね。
でもそんな都合のいい人しらないわ。だれかいないかしら。たとえばもう一回ブレイズにいって聞いてみるとか。でもそんな方法で見つかるならとっくにケリュケイオンに入っていると思うのよね。なにかいい方法ないかしら。
そうだ。クロウは殺されたっていったわよね。死んだんじゃなくて殺された。なら犯人がいるはずだわ。
その犯人を見つけて代わりにつきだすのはどうかしら。クロウは有名なメイジよ、ならそんな人を殺せるのはもっとすごいメイジのはずだわ。とっつかまえて警察機関イージスにつきだすか、それとも助手として働くかを選ばせるの。どっちがいいかなんてわかりきっているわ。
「いや待って、どうやってつかまえるの」せっかくの大発見にチェイスが水をさした。
「なんとかなるわよ。どんな人でも寝ない人はいないもの。ずっと緊張しているわけはないわ、油断しているところをつかまえるのよ」「仮にも人を殺した人を助手としてむかえるかな」
「大丈夫よ。黙っていたらわからないわ。あたしは教わるのはいやだけど奨学金打ちきりにはかえられないわ」
「……いいの? そういう問題か?」
「いいのよ、そういう問題なのよ」
そうと決まればさっそく探偵のまねごとよ。犯人をさがさなくちゃ。
「犯人か」チェイスはあらためてあたしをながめた。なに?
「犯人をしっているよ」まあ素敵! 決心して3つも数えないうちにもう殺人犯が見つかるなんて。
「その人メイジよね?」「うん、メイジだ」
ますます好都合だわ。後は隙を見てつかまえるだけよ。ああよかった、これで首がつながったわ。
「よろこぶのはまだはやいよ」なによ、どういうこと。チェイスは作業机に寄りかかってあたしを見る。なんだか観察されているみたいでおちつかないわ。
「犯人はデットエンド。マーカスシティでも有名な無法者だ。デットエンドというのは二つ名で、本名もどこに住んでいるかも分からない」げ。
「もちろん連絡手段もない。裏社会に生きる人だ、表からの手段では探しきれない」げげ。
「そして当然ながらすさまじく強い。直接対峙して無事だった人間は数えるほど。直接ではなく影からこっそり命を狙ったとしても結果は一緒だ。倒すのはもちろん顔を見て生きてかえるのもむずかしい」げげげっ。本当だとしたらあたしのほうが返り討ちだわ。そもそも探すのさえおぼつかないわよ。チェイスは肩をすくめた。
「やめたら? メアリーがどんなにすごいメイジだろうとデットエンドと戦うのは無理だよ。あきらめて帰ったほうがいい。できないことはできないんだよ」むっ。腹がたついいかたね。はなからできないと決めつけて馬鹿にしているわ。
「やめないわよっ。どんなすごい人だろうと人間は人間よっ、心臓刺せば死ぬだろうし不死身で疲れしらずの人なんてこの世にいないのよ。あたしはあきらめないわ。デットエンドがどんなに強くてマーカスシティ中走って必ずつかまえてみせるわ!」勢いよくたんかをきってあたしは工房を飛びだした。これ以上死人と向きあっても気分がしずむだけよ。表から探せないなら裏から見つけるわ。なにがなんでもデットエンドとかいうメイジを見つけて助手になってもらうよう説得するのよ。
さて、どうやってデットエンドを探そうかしら。裏社会の人間でしょ。清く正しく生きているあたしにはおおよそ見当もつかないわ。
こういうときは酒場にいけばいいのよね。はぐれものは同じはぐれもの同士、酒場で和気藹々と騒ぐものよ。
さいわいにしてもう夜だわ。あたしははりきってメインストリートへとくりだした。
一番にぎやかな酒場に選ぶ。ガンメタルという無骨な看板がかかっている酒場への扉を景気よく開けた。
入ったとたん罵声が炸裂してジャイアントクラブとわかめの和え物とバーボンを頭からかぶったわ。ぎゃあ、なによこれ!
「いけ、そこだ!」「赤毛の若造に10だっ」
「俺はJJJに15!」
男同士のなぐりあいが周りのテーブルをまきこんでいた。本人も周囲もすっかり興奮してもりあがっている。髪にしたたるアルコール臭をかいでいるうちに無性に腹がたってきたわ。あたしは杖をふりあげた。
「なにしているのよ! けんかするのは勝手だけどあたしをまきこまないでほしいわ、あたしは進路と命をかけているのよ、邪魔せずに通してちょうだい」杖を見て、油とバーボンまみれのあたしを見て、いっせいに笑い声が上がった。なんで笑うのよ。「おおい、おじょうちゃんがこまっているぜ」「道をあけてやれよ」馬鹿にするような猫なで声とともにカウンターまでの道ができた。あらうれしいわ。殴りあいの横を通って眼帯のマスターの正面に座る。どなってみるものね。
さて、席に座った以上なにか頼むのが道理というものよね。あたしははつらつと注文した。
「水ちょうだい」なにせお金がないのよ。メニューを見なくてもなにもたのめないのは分かっているわ。後ろでまたどっと笑い声が聞こえた。けんかがおわったのかしら。
「……メイジのおじょうちゃん、帰りな」いきなりなによ!
「ここは酒場だぜ。お子さまのメイジがきていいところじゃない」きていいとか悪いとかいう問題じゃないわ。必要があったからきたのよ、なにもせずにかえるわけにはいかないわ。
「あたしは酒を飲みにきたわけでもけんかをしたくてきたわけでもないわ。聞きたいことがあるのよ、デットエンドについてしりたいの」笑い声がとまった。ふりむくとほぼ全員があたしを恐怖のまなざしで見ている。なによ。
「デットエンドがあたしの探しているクロウを惨殺したようなのよ。つぐなわせるためにあたしは見つけてつれていくわよ。そのためにまずどこにいるかからはじめているの。デットエンドについて少しでもしっていることがあったら教えて」「……帰れ」
あたしのえりをつかんでつまみだしたわ! ひどいわ、なにするの! いくらわめいて暴れてもかよわい女の子と巨漢、勝負ははなからついているわ。
「おじょうちゃん、ひとつ忠告しておいてやる。なにがあったのかしらないがデットエンドを追うのはやめておけ」あら、マスターはデットエンドについてしっているの? もっと聞かせて。
「あいつは悪人ではないが、敵を生かしておくほど人がよくもない。かたきうちならあきらめな。相手が悪すぎる」「あたしはかたきうちをしたいんじゃないわ、クロウのかわりに連れていきたいのよっ」
最後までいいおわらないうちにマスターは酒場の扉を閉めた。なんてひどいの。ええい、酒場はここだけじゃないわ、次へ行こう、次!
ところが。どこに行ってもにたりよったりの反応だったわ。デットエンドの名前をだすだけで例外なくたたきだされるのよ。むしろはじめのマスターが一番親切だったわ。
7軒目をバケツの水とともに追いだされた時点であたしは考えなおしたわ。いつのまにかあたりは歓楽街になっていて、座りこんだあたしのそばを千鳥足の男がよろめき、安物の香水と煙草の臭いが鼻をついた。ケリュケイオンは完全禁煙だからきついわ。
デットエンドは思った以上の有名人だわ。恐れられてもいるようね。このまま一晩中マーカスシティ中の酒場を歩いてもだめそうね。どうしよう。
そうだ。殺されたってことは殺人事件よね。イージスにいって話を聞くのはどうかしら。普通の人に調査内容を教えてくれないだろうけど、先生のお使いっていえばうまくいくかも。
警察組織イージスはマーカスシティではそんなに信用がない。無能じゃないのよね、物騒な事件が多すぎて手が回らないのとブレイズが活躍しすぎて影がうすいだけなのよ。本当はとってもたよりになる組織だわ。
よし、たよろうっ。あたしは元気よく立ちあがった。もう深夜だけど大丈夫よね。犯罪は深夜やすまないんだからイージスだって起きているわよ。
直感だけで歩きはじめてふと気がついたわ。右手の安酒場や向かいの煙草屋にうずくまっている影がある。よく見ると人だわ、しかも複数人。あたしが立ちどまると同時に彼らは起きあがってあたしへ輪をつくりよってきた。