「あなたはわたしを恨んでいる? 憎んでいる、ひどいと思っている?」
「かつては。だが今更だ。どれだけの時が流れたと思う」
カーリキリト おしまい
「かつては。だが今更だ。どれだけの時が流れたと思う」
また朝がくる。
深い霧の中、日がにじむようにのぼる。暗く澄んでいた大気がゆっくり暖められる。
朝だ。まだ寝ぼけてまどろんでいるようなあさぼらけ。
まるで何億何兆と繰り返したのを忘れたように、また朝がくる。
人がまだいない街道の端で、青の楽師は歩き続ける。
帰るべき家はなく、頼る人はいず、目的の場所はない。
楽師はさまよう。朝の空をまぶしそうに見上げて。深い悲しみと、全てを許し愛する苦しみをひとり抱いて楽師はさまよう。
楽師は立ち止まった。朝日の中気づいた。
「出会った」手で顔を覆う。
「出会えた」これが、新しいはじまりだ。
はじまったのだ。小さな出発点だが、それでもはじまりだ。
「どうか」楽師は手を組む。朝霧に包まれ素晴らしい一日を約束している最初の時間に。
全てが良かった、なんてとても言えないだろう。これからまた多くの困難がある。道は長く、果すべきことがらは多い。
それでも楽師は祈る。
どうか。
どうか、幸せであれ。
今はただ、帰るべき場所へ。
全ての人が、全ての者が帰るべき場所へ。
カーリキリト おしまい