聞き終える頃にはミサスは露骨に嫌そうな顔になっていた。依頼人を隅へ招く。ザリから十分離れたことを確かめるとおもむろに問いつめる。
「なぜ俺がやらなくてはならない」相手はきょとんとしてから、おかしくてたまらないと笑った。
「あなたが言うか。もうさんざん聞いたことなのに」「終わったはずだ。俺には関係がない」
「いいや、終わっていない。なにひとつ終わっていない」
怯えることも引くこともなく相手は断じる。
「まさかミサス、人ひとりいなくなれば全て解決するなんて能天気なことを思っていないよね。ラスティアはいなくなった。終わるのはこれからだよ」「他に回せ。俺には不向きだ」
「そうかな。意外と違うかもよ」
すっとぼけて相手は指を折った。
「冷静で目的を見失わない。ミサスは敵には容赦しないけど敵個人を憎んだり恨んだりはしない。立場が変わったらすぐに刃を降ろすよね。珍しい性質だよ」ミサスと説得するように身を乗り出した。
「ミサスが宿命のひとりとして選ばれたのは、ただ魔道が優れているだけではない。性格、アキトの接し方、ミサスという存在丸ごとを選んだんだよ。その基準の中に未来も含まれている。今頼んでいることも、ミサスができるから頼んでいる。クララレシュウムもそう考えて宿命に含めたんだ」「以前は世界と種族の存亡に関係しているからやった」
突き放すようにあしらう。
「今の依頼を果しても意味はない」「そうだね。でもこれこそが治療の第一歩だよ。なにかを始めるには簡単なことから取りかかった方がいい」
ね、ミサス。拝むように手を合わせている。
「そんな大げさなこと持ち出さないでもいいじゃない。かつてアキトに見せた親切をもう一度見せてよ。あの子たちのために、そして過去のあなたのために」ミサスの目がかすかに開いた。
「調子に乗るな」言葉に不吉なものが混ざる。
「説得力のない言葉で俺を思い通りに動かせると思っているのか?」「それは違う。強制するのはわたしではない」
視線の先には後の卓があった。立った今食事していた皿を全てわきに押しのけ、熱心に地図をにらんでいる。固く結ばれた口元から、ザリの心はとっくに決まっていることは明らかだった。
ザリに断るという選択肢などないことなど、初めから気づいてしかるべきだった。ミサスはものすごく嫌そうな顔をした。