三つ首白鳥亭

−カーリキリト−

帰るべきところへ 14

「なにものなのかしらね」

鬱金は透明な杯をかかげ飲み干した。酒に弱いものなら匂いだけで酔ってしまいそうな強い酒だが、鬱金は水であるかのように口にする。荷づくりに四苦八苦しているリタは「だれのことですか」聞く。

「フォールストと名乗る青よ」
「鬱金さまでもそんなことをおっしゃるのですか」
「あれは例外よ。例外中の例外。

最弱、盤外に立つ人。観察者であり傍観者であり介入者。雷竜クララレシュウムによる未来予測の唯一の例外。いつも受身で自分からはなにもせず。あらゆるものの味方で、それゆえだれの味方でもない」

空になった杯をすかしてリタを見つめる。

「真の呼び名はカーリキリト。

あれはなにものなのかしらね。何千年も逃げ惑うカーリキリトの本当の神? 世界の意思、化身なの? それともどこにでもいる、どこにもいないただのだれかなのかしら」

「ただの人間ですわ」

永遠に近い命を持つ魔道士の考察を、リタは明快に答えた。

「恐れていますもの。自分にもその正体が分からず逃げ惑っていますもの」

影踊りの娘が取る態度に、鬱金はなにか言おうと口を開け、閉めて、そしてそっと息を吐く。

「そうかもね、リタ。あなたが正しいのかもしれない」