あたしはわなないた。「信じられない」
「嘘じゃない」「だって、だってそれじゃあ!」
神と反逆者との戦い、宿命の者アキト。知らないうちにあたしまで関係していた。
でも、だからって。
「信じられない。嘘だ、嘘だっ」「落ち着いて、ギリス。嘘をつくならもっともらしい、信じられるようなことを言うわ。ここまででたらめなことでだまそうなんてしない」
空を見上げてため息をついた。
「信じられないのも当たり前よね。だったらこう考えて。わたしたちはラスティアを追いつめようとしていた。ラスティアはヒビキを召喚し、彼を使ってわたしたちに対抗しようとした。ギリスは巻きこまれたの。ヒビキへの人質として『封印』を受け、ラスティアが消滅するまで時間を止めて、アザーオロム山脈に置かれていたのよ」「でも、だったら」
訳が分からないよ。混乱する。
「だったらどうして、ザリはここにいるの」「助けたいから」
悲しそうだった。
「ギリスとヒビキの置かれた状況をあんまりだと思って。もっと幸せになってほしかったから。ギリスがどう思っているのかを考えるとたまらなく苦しかったから。わたしのできることをしてあげたいから」「同情しているの?」
頭に血が上った。
「あたし、助けてほしいなんて言っていない!」大人ぶった態度が気に障る。年上であたしの知らないことを分かっているのが嫌だ。だまして、今まで手玉にとって、それなのに自分は悪くないみたい。哀れまれるのも見下されるのも我慢できない。
「知ったように言わないで。あたしは平気よ。ザリの助けなんていらない」「ええ、そうね」
「今までずっとひとりでやってきたんだ。これからだってそうする」
「うん」
「よしてよ。やめてよ。あたしに助けなんていらないんだ。今更同情しないで。あたしはひとりでなんでもできるんだ」
だって。だってだって。だってだってだって。
母があたしを殺しかけた時、ブロシアの家を出た時、シュウと2人でラスティアの前にいた時。
ザリはどこにいたの。他の人はどうしていたの。だれか。だれが。だれも。
いつだって、だれも助けてくれなかった。
「一番苦しい時、なにもしなかったくせに! 今更なによ!」「ええ、そう」
あっさりと、あっけなくザリは認めた。
「わたしはギリスになにもしてあげられなかった。いたことさえ気づかなかった。今だってなにもしてあげられない。わたしではギリスを助けてあげられない。傷は深すぎて、もう古すぎて、わたしには手の出しようがないの。どんな薬でも癒すことはできない」
「だったら、なんでここにいるの。なんであたしと一緒に座っているの!」吸い続けると身体に悪い空気。住民みんないなくなった街。死に絶えた学問通り。
あたしのいるところはこんなに危ないのに、どうしてきたの。
「それでもなにかしてあげたいから。わたしは自分がどんなに頼りなくて力がないか分かっている。宿命だ、良心だといわれてもなにもできない。わたしは無力だ。ギリスを助けてあげられない。そんな傲慢なこととても考えられない。
でも、あなたを助けたいのよ」
ギリス。赤い薬草師はあたしを呼んだ。
「泣かないで」「あたしは泣いていない」
「泣かないで」
「泣いてなんていない」
「泣かないでよ、ギリス。わたしは、ギリスのためならなんでもするから。好きなところに連れて行くしいつでもそばにいる。知りたいことはみんな教えるしどんなものからも守る。死者だってよみがえらせるわ。
だからお願い、泣かないで」
灰が降る。あたしとザリと、学問通りに。
「あたしは動かない」「うん」
「ここで待っている。だってシュウはくるから。いつでもきてくれるから」
例え絶対にこないことが分かっていても。
「ええ。わたしも待っているわ」あらかじめ分かっていたかのようにザリはうなずいた。目を細くして、まるで遠くを見るようにつぶやく。
「遅いわね」