城というものは巨大な生活共同体らしい。居住空間のみではなく鍛冶屋や仕立て屋なども一緒に入っていて、小刀や剣、鍋釜に服などを作っている。武器倉庫のような恐ろしいものもあればかりこまれ手入れされた庭まであって、これだけで丸々一つの街のようだ。
午前中キャロルに城を案内してもらった感想は以上だった。
「後は、壁にたくさん布がたれているのに驚いた。カーテンかと思ったけど外は別に窓じゃないし」「あれはタペストリという」
「やっぱり石造りの家だと寒いからかな。でもあれじゃ壁に穴が開いていても気づきにくいんじゃないか」
「異界技術をたくさん取り入れているから、本当に石のみでつくった建物よりはずいぶん過ごしやすいはずよ。その代わり増築に増築を重ねているから構造は入り組んでいるけど、城の意味からすればかえって好都合ね」
のんびりそんな話をしながら俺たちは中庭をぶらついた。陽光は強く空はよく晴れている。今までの服だとじゃっかん暑くて汗ばんでくるので、俺は上着を脱ぎキャロルもローブを着ていず、革の胴着と肘まである長手袋、 ズボンの姿でいた。
こっちでもそろそろ夏なんだな……
遠くから学校の放課後に似たものが聞こえてきた。若々しいかけ声と鋼のぶつかりあう音、どこかで誰かが剣の稽古でもやっているらしい。キャロルが耳を小刻みに動かした。
「今朝のアキトは弱かったね」いきなり痛いところをつかれて俺はつっぷした。キャロルのいう通り、俺は朝早くキャロルに起こされて無理に打ち稽古をして、当たり前のごとく大敗を味わったのだった。
「キャロル、お前手加減しているのか?」「しているに決まっているじゃない。アキトが弱すぎるのよ」
「クレイタの時では俺結構いけたと思うけど」
「それで天狗になっていたみたいだから潰したのよ」
「自信がついたといってくれ」
「言わない、その自信はまやかしよ、相手が弱すぎただけ。アキトが調子にのっていたらへこませるのがあたしの仕事です」
「ひで」
俺は改めて組んだ腕の中に顔をうずめた。実は結構ありがたいことをしてくれているのは分かっているが、どうも感謝する気にはなれない。視界が真っ暗な状況で暖かい日が髪の毛を暖める。ぼんやり俺の頭は過去へ過去へと導かれた。
「昨日は色々あったな」「何よ、そう突然。そうだけど」
「アットは喜んでくれたよな」
「こっちは驚いたけどね。意外だったから」
「ミサスか」
俺は顔を起こした。日差しがまぶしくて目を開けていられない。
俺たちが話し合っている間に何があったのかは知らないが、了解の意をアットに伝えた時、ミサスもアットの依頼を受けたことを聞かされた。
「俺は絶対ミサスはあのまま帰ると思ったんだけどな。アットよく説得できたな」「ま、ね」
「でもミサスは怖いけど、いると頼もしいよな。強いし」
「そう?
いても頼もしくはないけど」
「そりゃキャロルはな。……ところで、一体誰が剣で戦いあっているんだ?」
のんびり話している間も剣戟はやまない。キャロルは何の気なしに「見てみる?」と聞く。俺はうなずいた。
音を頼りに中庭を歩いたり2階に上がってみて、やっと俺は発生源を探し当てた。窓からその様子をうかがい見る。キャロルも俺の横に来てのどを鳴らした。
「不敬罪に当たらないのかしら、あれ」「友だちだし、いいんじゃないか?」
そこにはたった2人、イーザーとアットが真剣での打ち合いをしていた。アットもイーザーのに似た、でもはるかに綺麗でしっかりした服を着て、イーザーのよりも少し短めの剣を持っている。アットがしきりに切りかかり、イーザーはバックラーや剣で防御専念となっていた。
「実力差は明らかね」キャロルは気だるげに批評した。
「え、アットってイーザーが全然かなわないほど強いのか」「おいおいアキト、その目は節穴なの?イーザーのほうがずっと有利でしょう。殿下のほうが小器用だけど、素早さも瞬発力も体力も持久力も、どれを取ってもイーザーが上よ。それに現役で最前線に立っているものと後ろで守られる立場のもの、勝負は明らかよ」
「そうか?」
俺は今ひとつ納得しなかった。するとキャロルはどこからともなく小石を取り出す。
「だったら証明してあげるわ」言うが早いか。キャロルは目でとらえきれないほど素早く小石を投げた。下のイーザーがはっとバックラーをこっちへ向けて小石を防ぐ。生じた隙を狙ってアットが小ぶりの剣を突き出した。イーザーはとっさに剣を振り、アットの剣と交差する。空の果てまで響いたかのような金属音がして、力負けしたかのようにアットがよろめき、刃物が下へ落ちた。イーザーはそのままつめよりアットののど元に剣を突きつける。一瞬だった。
「おしまいだ」イーザーはこれまたあっさり剣を引いて、俺のほうへ見上げる。
「アキト、今みたいなのは止めてくれよ。危ないだろ」「え、俺?」
横のキャロルはしゃがみこんでいて、俺を見上げて「ほらね?」とばかりににっと笑った。それは分かったから投石したのは自分だと証明してくれ。
「いいからこっちへ来いよ。昨日のことで話がある」「分かった」
俺は窓から身を乗り出して答えると、すぐに下へ降りる階段へ走った。キャロルも続く。俺たちがすぐ中庭へ到着すると、待っていたようにイーザーが手を振った。俺の後ろのキャロルを見、何か合点がいったかのようにうなずく。ああそうだ、石を投げたのは俺じゃない。
「昨日ラスティアについて情報屋に問い合わせてみた、その答えが返ってきたぞ」「なんて?」
「フォロー国内の有名人にラスティアという人物はいないとさ。少なくともフォロゼス内にはいない」
「そっか」
俺は少なからずがっかりした。
「どうする?」「そだな、俺の知っている一番の情報通はアルだけだからな。しょうがない、もう一回あいつのところに行くか」
「またか?」
せいぜい中学生にしか見えない黒髪の女の子が頭の中に浮かんだ。あいつ、頼りになるのかな。でもグラディアーナを教えてくれたのはアルだった。少しは見込みがあるかもしれない。
「あ、キャロル、一応聞くけど、そういう人脈持ってないか?」「あたしに期待しないで。あたしが影の長候補でなくなった以上、使えるものはない」
「そっか。悪かった」
「気にしないで」
キャロルはどうでもよさそうに肩をすくめた。
「僕の方でも手を回して、何か分かったら伝えるよ。いつアルちゃんのところへ行くの?」「長居しなくちゃいけない理由はないしな。明日にでも行ける」
「そうか」
アットは少し寂しそうだった。やっぱり仲のいい友だちがさっさと行ってしまうのは寂しいのだろう。それも他ならぬ自分の頼みで。もっとも「何か必要なものはあるか」とイーザーに聞く姿は、そんな感情は少しも残っていなかったが。
「いや、特にない。あ、でも、身を守るような魔法の品があったらありがたいんだが」「ごめん、ない。あることはあるけど僕の権限で持ち出せない」
淡々としたやり取りの中で、俺は短い休息が終わるのを感じ、アットではないがなんとも物寂しい気分になっていた。
イーザーの宣言通り、俺たちは次の日出発した。城を出る時、わざわざアットは「アルちゃんによろしく」と門まで見送りに来てくれて、見えなくなるまで手を振っていた。イーザーの友だちらしくいい奴だ。
ミサスは俺たちの後を黙ってついてきた。やっと自分の意思で同行するようになっても態度は相変わらずだった。口数も少ないというより皆無、表情の変化もわかりにくい。今日も俺たちの後をひたすら無言で歩くだけで、何を考えているのかさっぱり分からない。キャロルは無視しているしイーザーは「そうしたいんだろ。性格だったら気にしないほうがいいよ」とおおらかに気にしていないので、俺もなんでもないように振舞ったが、それでも時々後ろを振り返って着いてきていることを確認した。
アルの住んでいるイゼーオへは早朝出発して夕方に着いた。もともと首都のお膝元として昔から静かに栄えていた街らしい。小高い丘から白い静かな街を見下ろした時、俺は既視感すら覚えた。なんだか昔に帰った気がする。心を落ち着けるため、俺はこっそりそ知らぬ顔のミサスを確認した。
小柄な黒翼を見て今現在であることを確かめてから、俺たちはアルが住んでいる家まで行く。前に行ったとき、奴は山に登っていて会うのが大変だった。まさか今日もそうではないよな。
幸いにも違ってアルは家にいるようだった。家の中ではなく自宅の屋根の上に。
「何であんなところにいるのかな」家の前で見上げながら俺は一人ごちた。キャロルが首をかしげる。
「鳥と何とかは高いところが好きだからじゃない?」アルはしきりに横に向いて話しかけては、俺と1つ違いとは思えない幼い顔一杯に笑う。それはいいのだが、しかし俺には横にはだれもいないように見える。俺はてっきり馬鹿になったのかと青ざめたが、よく見ると小さい羽虫がいる気がする。虫に話しかけていたのか。それはそれで問題だ。
「おーい、アルー!」イーザーが大声をあげて呼びかけると、すぐにアルは俺たちに気がついた。やっと手を振りかえして屋根から下りようとする。
「よう。何で虫なんかと話しているんだ?」俺も呼びかけた。イーザーとキャロル2人が俺を見る。どうしたと思う間もなくあるの横にいた虫がこっちへ一直線に来た。あれ?
「虫って言うなぁ!」威勢のいい掛け声とともに、俺が今まで虫だと思っていたものが目前まで来て胸を張った。俺が虫だと思っていたのは、15センチぐらいのきらきら光るトンボの羽を持つ女の子だった。よくお話である花の妖精みたいでかわいかったが、小さいなりに針の剣と布の鎧を着用している。
「この僕の、どこが虫なのさ!」「アキト、よりによってピクシーにそんな最大限の侮辱して、全くもう」
キャロルは頭痛を起こしたかのようによろめいた。
「え、それは悪い。ところでピクシーって何だ?」「いなか者。ひどいよ、僕のこと知らないの?」
いなか者とはなんだ、どうして純潔日本人である俺が西洋の虫について詳しくないといけないんだ。俺は少なからずむっとした。「悪かったな」
「仕方がないよ、その人次元移動者だから知らないんだよ。許してあげて、シェシェイ」アルが笑いながらいつの間にか下りてきた。
「アキト、ピクシーっていうのは見ての通り妖精でね、ちっちゃいけど飛べるし、色々魔法を使ったり消えたりできるんだよ。このピクシーはシェシェイっていうの。仲良くしてね」「よろしく」
俺は恐る恐る手を伸ばして握手をした。ここに来て数ヶ月、いい加減人間外の生き物にもなれたが、こうまで大きさが違うのは初めてだった。まるっきり空飛ぶ人形で、叩けば潰れてしまいそうな危うさがある。向こうはそんな危険に気づいているのかいないのか、まだ不愉快そうなまま俺の小指並みの手で握手を交わした。
「前にはいなかった人がいるね。誰?」「ああ、アル、紹介する。黒翼族のミサスだ。ミサス、こいつが俺の友だちのアル・グラッセ」
「風使いのアルです、よろしく」
アルは笑顔で挨拶して手をさしのべたが、ミサスは無反応だった。かといって気を悪くするでもなく、早々に手を引っ込めて「それで?」とイーザーをうながす。
「それでって?」「なんの用?
別に遊びに来たわけじゃないんでしょう?」
「まあな。聞きたいことがある」
「いいよ。内緒の話?」
「どちらかといえば」
「じゃあ晩御飯食べながら話そうか。時間が早いけど下宿のみんながまだ来ないからゆっくり話せるよ」
下宿屋をやっているからかアルの家には大きい食堂があり、そこで夕食を頂戴することになった。温かい黒パンにハムを分厚く切って焼いたもの、野菜たっぷりのシチュー、ここにしては十分なごちそうをふるまわれた。俺たちは食べながら今までの事を話して、シェシェイを追い払ったアルは時々つっこみをいれながらもきいていた。
「また大事になったね」気の毒がっているというより面白がっている顔で、アルは身体のわりに大きなマグカップを持ってお茶をすすった。部屋中にこうばしい香りが広がる。
「とりあえずグラディアーナ探しはおいて、ラスティアという人物を当たってみることにした。この名前に心当たりはあるか?」アルはしばらく宙を見上げて考えていたが、やがて首を振った。
「心当たりはない。名前だけじゃ何も分からないよ。姓とかが分かっていれば多少はしぼれるけど」「それも分からない」
そもそも名前の出所としてはすごくあいまいだからな。本名かどうかすら。
「他の人にも当たってみるけど、ごめん、当てにしないで」「何とか頼む、アル。情報屋でも分からなかったし、もうお前以外に当てはないんだ」
すがられてまんざらでもないのか、にんまりアルは笑顔を浮かべた。
「うん、やってみる。あとそれからあの後ちょっと調べてみたら、この近所に召喚士らしい人がいたことが分かったよ」「本当か!?」
俺は皿をひっくり返さんばかりにつめよった。黄色いお茶がテーブルに少しこぼれる。
「どこだ、どこにいる会わせてくれっ!」「落ちつけ、アキト」
キャロルが獰猛な動物をなだめるように俺をおさえた。やけに落ちついてお茶を飲んでいる。
「キャロル、落ちつけってこれが落ちついていられるかっ、召喚士がいるんだぞ」「らしき人。間違えないように。それにだったらなんでこの前思い出さなかったの?」
ただ忘れていただけじゃないのかと俺は言いそうになったが、アルはからからと続けた。
「さすが。その人もう40年位前に亡くなったんだ。昔ふらりと流れてきた人だからどういう人だかさっぱり分からないし」俺の喜びと希望はあっという間に悲しみと挫折に変わった。死んでいるのだったら話を聞くどころではない。ところがしおれた俺とは逆に、イーザーはいやそうな表情になった。
「つまり、俺しか話ができないんだな」「うん、そう」
アルはうなずく。俺は意味が分からなかった。
「つまり、なんなんだ?」「おいアキト、俺の扱う魔法はなんだ?」
「え? えっと、傷を治したり幽霊と話したりできる。あ、なるほど」
俺の認識はずいぶん間違っていたらしく、イーザーは不機嫌を隠さず訂正する。
「生と死を司る鍵門魔道だ。そんじょそこらの霊媒や死霊魔道と一緒にしないでくれ。確かに俺ならその人から話を聞くことは可能だな」「行くんだね。葬られたのは旧墓地。古い墓地の方だよ。案内いる?」
「いらない、自分で行く」
「これからどうする? どうせ宿をとるでしょ、ここに泊まっていく?」
「いや、アットから資金は十分もらっている。情報屋に泊まるよ」
「そう? 夜通し一緒に昔の話でもしようよ」
「遊びに来たんじゃないんだぞ。霊を呼び出すにはそれなりの準備もあるんだし、そう世話にはなれない」
冷たいといえるほどイーザーはそっけなかった。
たとえ十分に資金があっても贅沢するつもりはないらしい。情報屋でイーザーはいつもどおり2人部屋をとって俺と一緒におさまった。ちなみにミサスは勝手に一人部屋をとってとっとと行ってしまった。
部屋に荷物をおいて一休みしてから、イーザーは今まで俺が見たことがない変なものを荷物から取りだして準備とやらをはじめた。化学で使う硫黄のような黄色の粉、白い石、動物の骨のかけらなど。じろじろ見ていると怒られた。
「それで幽霊とお話できるのか?」「ああ。厳密には話すわけじゃないけど、そう考えていい」
うわの空で答えてから、イーザーは小道具を1つ1つ慎重に小さい袋の中に分けて入れると、ベットの隅において部屋を出ようとした。
「え、もう出発か」「いや、水をもらって身体を清める」
ここには日本のように身体を沈められるような風呂はほとんどなく、たいていたらいに湯を張って行水するのが入浴だった。石鹸もやたらごわごわしていて泡立ちが悪いものを大切に使う。ついでに言うとお湯の代わりに水がはっていて、うかつに入ってから飛び上がったことも結構ある。俺は風呂はカラスの行水だからあんまりかまわないが、風呂好きの人間にはきつかろうな。それはともかく。
「わざわざ水? いくらそろそろ夏だからって風邪ひくぞ」「いいんだよ、身を清めるためにするんだから」
酔狂なという感想の俺を残してイーザーは出ていった。1人俺がぼんやりしていると扉が叩かれる。「誰だ?」前にすぐに扉を開けて無用心だとしかられたことがあってから、俺は少しは用心をするようになった。
「私だよ」「アル?」
扉を開けるとそこにはまぎれもなく、さっき分かれたばかりのイーザーの友人が立っていた。
「入らせてね」「別にいいけど、イーザーはいないぞ?」
中へ招きいれながら俺は言った。
「分かっているよ。アキトに用があるの」「俺?」
この小さい女の子はイーザーの友だちであって、俺の友だちではない。第一2回しか会った事がないのだから知り合いとすらいえない。せいぜい顔見知りだ。それなのにアルはもう何年も前からのつきあいであるかのように肩をたたいて笑った。
「ねえアキト、イーザーの使う交霊術って見たことがある?」「ない」
それに近いのは見たが、あれは違う気がする。
「私もだよ。アキトはそれ見たくない?」「見たくないわけじゃないけど無理だよ。イーザーは秘術だからって話すのも嫌がるのだから」
するとアルは心にやましいことがあるかのように声を落とした。
「だったらイーザーにばれないように見物すればいいよ」「おい、それってこっそりのぞき見するのか?」
「うん」開き直ってアルはうなずいた。
「止めといたほうがいいんじゃないか? イーザーにばれたら怒られるぞ」
「ばれないよ。交霊のために精神集中しなきゃいけないはずだから、いったん始めたら周りのことなんて見えないって」
「そうか? でも」
「こんな珍しいもの滅多にお目にかかれないよ」
「うん、それはあるけどさ」
「それにどうせ私やアキトが見たって絶対に再現できないもん。秘術を内緒にする理由の1つに悪用されたら困るからだよね。でも絶対に真似できないことが分かっているんだからちょっとぐらい見学してもいいはずだよ。誰にも話さないし真似しない。ならいいでしょう?」
「そうかもな」
俺はぼんやりその気になった。すごく見たいわけではないが見にいっても悪くはない。
「よし、ならいこうよ。イーザーが墓地に出発したらすぐに私の家に来て。一緒にいこう。やった、前からずっと見たいなと思っていたんだ。今日ためしに言ってみてよかった」「キャロルとイーザーはどうする?」
「キャロルは聞いたら馬鹿にしそうだから言わない。キャロルって現実的だよね。ロマンが分からないんだよ」
俺はアルの身を滅ぼしかねない強烈な好奇心が分からない。
「ミサスは無関心そうだから。誘ってもこないでしょう。それじゃあね、アキト」帰ろうとしてアルは立ちどまった。
「忘れてた。ちゃんとスタッフ持ってきて」「うん」
俺は気楽に答えたが、どうしてそんなこと念を押すのだろう?
嵐のような訪問が終わってからしばらくしてイーザーが帰ってきた。「じゃあ行ってくる。2時間もしたら帰る」とだけ言い残して荷物を持ち、とっとと行ってしまった。俺はなんだか裏切っている気がしてうしろつめたかったが、そんな俺の不自然さを気づく間もなかった。
なんだか悪いことをした気がするが、いまさら約束を取り消すわけにもいかない。5分後には俺も情報屋を出ていた。イーザーの姿はとうにない。夜の街を1人で出歩くのは怖かったが、何事もなくアルの家についた。
アルは家の玄関の前で俺を待っていた。動きやすそうなシャツとズボン、柔らかそうな革靴に、腰には大振りのナイフまである。足元に転がっている道具袋はちらりとランタンがのぞいていて、やる気のほどがうかがえた。
「さ、私たちも行こう!」格好だけでなく当人もうきうきしていた。袋を背負って火を入れたランタンを腰へくくりつけ、足取り軽く歩き出す。
「イーザーは先に行っちゃったぞ。追いつけるのか?」「あったり前じゃん。ここは私の街だよ、なんでも知ってるよ。旧墓地へ行く近道があるんだ。山道だけど普通よりずっと早く着く」
アルを先頭にして素直についていったら、いつのまにか周りが山になっていた。もちろん歩きやすい平べったい道から獣道へと移行している。小柄で身が軽くて慣れているアルは平気な顔で進んでいるが、平均的男子体格で身が軽くなくて不慣れな俺はスタッフを杖代わりにかろうじてついていった。おまけにランタンは懐中電灯より暗くて、さらに持っているのが俺ではないから足元が暗く、歩きにくいのなんの。俺はアルにつられたことを後悔した。
心の中で不平不満をこぼしつつ、10分ぐらいで俺たちは旧墓地についた。俺はより深く後悔した。旧が使われているほど古く、もう使われていない墓地で山の中。楽しい場所であるはずがなかった。明かりはなく文明的なものもなく、くちかけた墓標がいくつも立っていてイーザーがいなくても幽霊の1人や2人出てきそうな雰囲気。来て早々だが帰りたくなってきた。
「交霊にはぴったりだな」「でしょう」
それなのにアルはなぜか嬉しそうだった。
「イーザーが来る前にかくれよう」すっかりやる気がなくなった俺を気にせず、アルは墓地より高所にある茂みを隠れ場所に選んだ。茂みの奥は一見崖だがかくれるようにくぼみがあって、多少動いても音は聞こえないし墓地からは見えにくい、おまけに高所にあるので墓地が見やすいと条件はよかった。
俺とアルはその中に入り、光がもれないようにランタンのふたをして座りこんだ。普通はランタンにふたはないがアルが持っているのはついていた。盗賊のランタンといって明かりを隠す機会がある人には重宝されているらしい。
夜食代わりにアルが持ってきたサンドイッチのご相伴にあずかった後はひたすら待ちだった。周りは山と墓地で見て楽しいものはないし、アルと話をしていたらそのうち来るイーザーにばれるかもしれないので会話もできない。自然に俺は眠くなってきた。右腕をしめっている枯葉つもった地面につけて、右ひざを立てて顔を乗せる。ちょっとだけだと自分に言い訳をして俺は目を閉じた。
「(きた、きたよっ)」ゆさぶられて俺ははっとした。少しだけのつもりだったがやけに頭がすっきりしている。結構長い間寝ていたのかもしれない。
「(イーザー?)」しげみから墓地をのぞきこむ。イーザーはたいまつをかかげていたので居場所はこんなに暗くてもすぐに分かった。注意深く周囲を見回し墓の中央へ歩む。たいまつを地面にさしてイーザーは深呼吸を1つした。腰袋から黄色の粉をつかみ出して、ミサスの身長ぐらいの直径の円の形になるように振りまく。さらに何かを取りだして呪文を唱えはじめる。
(……)俺はイーザーから目を離して周りを見わたした。アルは恋でもしているかのようにイーザーしか見ていない。気のせいか?
(……ト)いや、空耳なんかじゃない。はるか遠くのけして大きくないイーザーの声にさえかき消されるほど弱々しい言葉が聞こえる。はじめは風で木々の葉がこすれあう音かと思った。でもその中に意味が混ざる。
(ア……ト)(ア…… ラ……)
アルははっと身を引いて俺へ見た。俺は口だけ動かして聞こえるかとたずねる。アルはうなずいた。
(アキ…… アキト……)(ラスティア、ラスティア、ラスティア)
いまやささやきは俺をすっぽり包んだ。心地よい葉ずれの音の中に2つの名前が広がる。
(アキト、アキト)(宿命の子)
(ラスティア、ラスティア)
(反逆者)
(アキトアキトアキト)
(ラスティアラスティアラスティア)
俺というちっぽけな存在に膨大ななにかが広がる。俺はただ圧倒されるだけで身動き1つ取れない。それどころか他を考えることさえ不可能だった。
(ここへ……)(ここへこい!)
「うわあぁ!」
俺は叫び声を聞いた。そのとたん奇妙な呼びかけは消滅した。なんだか長い夢を見ていて、しかも起きても現実ではなく夢の続きの中にいるような気分がする。ぼんやり平穏に虚空を見た。
「イーザー!」アルが声を上げる。俺は夢心地のままイーザーをながめて、即座に夢からさめた。
イーザーの周辺上空におびただしい白い塊が浮いていた。俺のとぼしい知識から察するにあの白いのが幽霊なんだろう。そしてなぜか幽霊はイーザーを襲っていた。白いものが体当たりをするたびにイーザーは叫んではせまい円の中で転がって逃げる。いくらなんでもおかしい、俺の想像する交霊術というのはこんなものではないはずだ。
「なんでだよ、イーザーは霊の専門だろ。どうして襲われているんだ」「知らないよ、私も途中から見ていなかったし」
「それにどうしてイーザーは反撃しないんだ?」
「分からないって。でも助けなきゃ」
アルの意見は実にもっともだった。幸いにして俺の手元にはスタッフがある。これで殴れる。でもひとつ疑問があった。
「幽霊殴れるのか?」「ううん、すりぬけちゃうよ」
「じゃあ俺が行っても白いのを倒せないぞ。そもそもだったら俺にできることがあるのか?」
「ある」アルは自信満々だった。
「スタッフ貸して」
俺は訳が分からぬままスタッフを横にして差しだした。アルは両手を広げてスタッフに触れる。瞳がスタッフを一途に見つめ、静かに木の棒に両端から手を走らせ中央で左右の手を閉じた。その瞬間スタッフから風がきた。まるでつむじ風を目の前で見ているかのように空気が吹きすさぶ。風はまぎれもなくスタッフからだった。
「な、な、なにしたんだっ」「風を武器に付与したの。一時的だけどこれでスタッフでもこの世あらざるものを殴れるよ」
俺は恐る恐るスタッフを両手で持ちあげた。風は止まらない。俺は精霊術を目の前で見たり自分のスタッフが気味の悪いものになってしまったりでまだ硬直していた。そんな俺は放っておいてアルはしげみから飛びだす。
「今行くよ!」全身泥まみれのイーザーは俺たちを見て目を開く。何か言おうと口をあけたが、目前に迫ってきた霊から逃げるために言いそこねる。
俺は考える。俺より小さくて年下の、しかも女の子が行って俺はここでまごまごしている。いくら恥をかくのが仕事のような俺とはいえ恥ずかしくないか? 俺は覚悟を決めてアルの後ろを追って走りだす。
「邪魔!」アルが一喝腕を振るった。手の動きに応じてかまいたちのようなものが発生し、枯葉を空中に持ちあげ立ちはだかっていた霊をなぎ払う。さすが小さくてもイーザーの友達、すごいぞ。
俺にも白いものが向かってくる。存在そのものに背筋を凍らせながら、俺はスタッフを軽く振った。スタッフに当たった幽霊どころか近かっただけの幽霊もが音もなく払われて散らされた。現実で決してありえない威力に俺は恐怖が半減して自信がつく。
俺がいい気になっている間にアルはずっと先、イーザーをかこむ円陣にかけつけていた。
「イーザー、なんとかできる?」「時間をかせいでくれ、すこしでいいっ」
「分かった!」
アルを中心にして風が渦を巻いた。髪も服もなびいて動く。たいまつの炎が踊る。アルの周りで踏みとどまった風は、ある一点で暴発して荒れ狂った。巻きこまれた幽霊は冷たい悲鳴を上げて消える。
遅ればせながら俺もやっとイーザーのところまで到着した。恐怖はきえさり高揚感が全身に満ちる。俺はイーザーの前に立ちふさがった。あたらなくても近寄るだけで霊は逃げていく。
「っ」と思いきやただ散っただけでまた1つに戻っては、恨みがましくかろうじて目らしい空洞で俺を見る。どうもそうそううまくはいかないらしい。
俺がぼんやりしたすきに白い塊はスタッフの下をかいくぐり、俺の左腕を通りぬけた。
「わっ」とたんに左腕全体がかじかんだかのように動かなくなる。腕がしびれてスタッフが落ちた。音もなく霊たちがよってくる。スタッフをあわてて拾ったはいいものの、片腕では重くて振りまわせない。
「ぎゃあっ」重いのを承知でスタッフを動かそうとしたが、そう簡単にいかない。左腕は血が通わなくなったかのように俺の言うことを聞かないし、こっちの都合にはかまわず幽霊が俺に触れようとする。腕でこうなった一撃を頭で受けとめたくない。俺は腰をぬかすように転んでかろうじて避けた。でも転んだ姿でこれからどうやって逃げればいい?
「アキトっ」アルがあわてる。俺は左右どちらに転がってかわそうかとした。しかしイーザーのほうがはやかった。剣を自分の正面に構え、鋭く気合をこめた呪文を発する。空間全体に衝撃が走ったかと思うと、霊が風にふかれた煙のように霧散し消える。あたりは何事もない、ただの古い墓地となっていた。
イーザーが立ち上がった。当然ながらどうみつもっても機嫌が悪そうだった。
「アル、なんでここにいて、なにをしていたんだ。言え」「その前にアキトを。手当てしないと」
逃げるでもあがなうでもなくアルは言った。俺のほうへ来て腕を診る。しびれはまだ消えない。
「生命力奪取だろう」「みたい。呪いとかはかかっていないよ。よかったね」
よかったねって、そう簡単に言わないでほしい。肝が冷える。
「呪われると解くのはすごく大変だし疲れるし、それに後々まで影響するしで…… 私はもう今日は術をつかいたくないよ。疲れた」「朝ごろには回復しているだろ。もともとそう強いものじゃなかった」
「でもイーザーは手も足もでなかったじゃない」
「そうじゃない! 単にいきなりで驚いたのと、俺が呼んだものだから俺からは攻撃できなかっただけだ!」
そんなに悔しかったのか、イーザーはむきになって反論した。
「なんで襲われたんだよ。失礼なことでも言ったのか?」「違う、なんとかそれらしきものを呼べたことは呼べたんだ。でもラスティアについて聞こうとしたらいきなり狂暴になって襲いかかられた。結局なにも聞けなかったぞ、なんだったんだ」
「今幽霊を消したけど、あれはどうなったんだ?」
「鎮めてもといた場所に戻ってもらった」
「また呼べないのか?」
「俺の実力じゃあ当分無理だ。第一俺はなんでああなったのか、どんな理由があるのかさっぱり分からないんだ。アキトのことさえ無事に質問できるかどうかわからないのだし、質問したこと自体で牙をむいてくるのだったらお手上げだよ。俺だって当分はごめんだ」
もう駄目ということか。がっかりする俺をイーザーは怖い目でにらんだ。
「じゃあ今度はそっちを聞かせてもらおうか。なんでお前たちがここにいるんだ」返答しだいではただではすませない。その気迫に俺は思わず後ずさりした。すると俺の前に気軽にアルがでる。
「1人で行くイーザーが心配だったからついてきたの」「俺を?」
「うん。1人で野外の人目が全然ないところに行くなんてどう考えても危ないじゃない。それでも普段だったら気にしないけど、今は危険な人物を追っている最中でしょ。イーザーを邪魔だと思っている相手からしてみれば千歳一遇の機会ということになるよ」
「仕方がないだろ、霊媒は」
「秘術だから、分かっているよ。だから私とアキトだけで行ったんだよ。私は風使いだから魔法は扱えないし、アキトなんてもう論外だ、どう考えても術を盗まれないでしょ。どうせ言ったって反対するから黙ってこっそりついてきたよ」
大真面目な顔でよくもまあ嘘がつけるもんだと俺は感心した。俺ですらそうだったのかと信じそうになる。あるいは見物というのは口実で本当の目的はこっちだったのかもしれない。
イーザーはすこし考える。じろりとアルを見た。
「どうせそれだけじゃないんだろう?」「うん、ちょっとは珍しいものを見たいと思っていた」
素直にアルは認めた。
「あー、分かったよ、心配かけて悪かったな、でももう2度とするな。アキトもそんな誘いにのるなよ。危ないだろう」イーザーは苦笑いした。つまりもういいということなのだろうか。俺はきっぱり「もうしない」と約束した。丸くすんでよかった。
安心したついでにもう1つ、俺には分からなかったことを思いだした。
「イーザーはあの声を聞いたか?」「声? アルのか?」
「いいや、知らない人の声」
「俺は知らない」
イーザーはアルを見ると、やましい話をしているかのように声の音量を落とした。
「フォロゼスで言っていた、例の声か?」「いいや、違う」あれは日本でのみ聞こえるものだしな。「そっちは1人だけど、今のは何十人の合唱みたいだった。いいや、というか全員でいっせいにささやいているようなものだった。それにアルにも聞こえた」
「アル?」
アルは目を閉じて思い返しているようだった。
「私も聞いた。はじめはよく注意しないと分からないように小さく、でもだんだん大きくなってすっぽり私をおおうように声が響いた。あれはなにか大きな、精霊に関するものが考えていたことを偶然私たちがとらえたか、あるいは伝えたかったのだと思う」すこし言葉を切って考えた。
「その人かその人たちは人間じゃない。遠い存在だと思う。アキトが声に圧倒されて飲みこまれそうだった」「飲みこまれる? 大丈夫か?」
「うん、ちょうどいい時にイーザーが襲われて正気に帰れた」
「そりゃよかった」
イーザーは不満そうだった。アルは無邪気な笑顔を消して真剣な表情になる。
「ね、ラスティアって誰? なんで呼ばれたの? それにアキトだって、そうだ、アキトと呼ぶ声だって聞いたんだよ。一体なんなの、なにが起きようとしているの」そういえば俺も呼ばれていたな。ラスティアのほうに気をとられていたが。
あれ、それ以外にもなにか言っていなかったか? 思い出してみようとしたがうたた寝の夢のようにもうぼんやりとしていてなにも分からなかった。なんだったっけ。
「それを調べようとしているんだよ」イーザーは陰鬱に答える。
「イーザー、危険だよ、これは」「分かっている」
「いや、分かっていない。イーザーもアキトもどんなに危ないのか全然分かっていない」
アルは不満そうだったが、それ以上は言わなかった。
アルと別れて情報屋に帰った俺たちをむかえたのは、なぜだか俺たちの部屋にいたキャロルだった。人のベットで勝手に寝ていたキャロルは俺たちが入ると同時に目をさまして起き上がり「で、どうだった?」と聞く。待っていたらしい。
そろそろ血の気が通ってきた左腕を振り回しながら俺は事情を話した。アルにつられて見物しに行ったことは言わなかったが、それでもキャロルに渋い顔をされた。
「そういう時は声かけてよ、危ないわね。さて、これからどうする?」「そうだな。なんで幽霊が襲うのか、墓地で聞こえた声がなんなのかが知りたいな。霊は俺がやる、声はキャロルとアキトと、ミサスにやらせよう。明日全員で墓地に行って調査して、情報屋でも聞かないと。アルも調べ物に引っぱりだせるのなら使おう。アルのおばさんには悪いが」
「使おうって、アルはものじゃないぞ」
「ん」キャロルは誰もいない壁へ振り返った。大きな耳が動く。
「どうした、キャロル」
「真夜中なのに騒がしい。下で誰かが騒いでいるみたい。よっぱらいね、はた迷惑な」
耳をすましても俺にはなにも聞こえない。よほどキャロルの聴覚がすぐれているのだろう。日本はお酒は一応二十歳からとなっているが、ここではもっと年齢が低い。俺ぐらいの年でも堂々と飲酒できるぐらいだ。なぜかイーザーもキャロルも酒は口にしないから俺も飲まないが。
他人事だったのもそこまでだった。騒がしさは上へ登り、さらに部屋まで近づいてきた。なにごとだと人間なみの耳の俺が顔をあげた時、乱暴にドアがたたかれる。おいおい、今は日本ですら訪問するには非常識な時間だぞ。
「開けてイーザー、いいこと聞いたよ!」知り合いの声だった。視線は自動的にイーザーへ向く。イーザーはというと、なんだか悲しそうだった。
「アル、頼むから声を落とせ……」「ごめん、でも開けてよ」
キャロルの顔をうかがってから、イーザーは鍵を開けて小柄な風使いをまねきいれた。アルはまだきがえていないらしく、さっきの墓地の格好と同じだった。そして1人ではなかった、肩には昼間俺が虫とまちがえたピクシーの女の子をのせている。
「夜中にごめんね、でもどうしても伝えたいことがあったの」「なんなんだ? はやく言え」
「私が家に帰ってこのこと話してみたら、その声にシェシェイが心当たりがあるっていうからつれてきた」
「本当か!」
俺は一気に色めきたった。金色の光のような燐粉を放ちながら、小さなピクシーはえらそうに胸をはって話しはじめる。
「うん、ぼくの友だちにここからずっと飛んだ森の奥に住んでいる人がいるんだ。すっごく頭がよくて色々知ってて、それで精霊使いだよ。樹の精霊使い、その声ってさ、その人が何か伝えたかったんじゃない?」「木?」
「うん。その声って木々のささやきのような感じだったでしょう。だったらその人と関係あるかなと思っているの、どうかな?」
「どうって」
「関係あるにきまっているでしょ、それは」
キャロルが俺をさえぎってきっぱり言った。
「もしそうでなくても話は聞きたい。シェシェイ、その人に案内してくれる?」「もちろん、まかせて!」
15センチの女の子は自信たっぷりに答えた。正直、俺にはちっとも頼もしそうに思えない。
「よろしく」ピクシーはアルの肩から俺の前まで飛んできて手をさしのべた。握手のつもりなのだろう。俺も恐る恐る人差し指を出すと両手でにぎりかえされた。その力のなさに俺はますます弱気になった。